2024/04/24 18:30
透き通る歌声は儚げな反面、時に力強く魂に突き刺さる。
そのとらえどころのなさは、絶望系アニソンシンガーReoNaの魅力でもある。
テレビアニメ『シャングリラ・フロンティア』のエンディングテーマとしてリリースされた「ガジュマル〜Heaven in the Rain〜」は、大切な人との別れがテーマ。
自身が経験した大きな別れと向き合い、聴く人の絶望にもそっと寄り添う。
昨年、武道館ライブを大成功に収めた彼女が、今年届けるステージは5年間の奇跡。
絶望の、その先に見える景色とは…
――2月28日、9枚目のシングル「ガジュマル〜Heaven in the Rain〜」がリリースされました。前回の「R.I.P.」から結構早いタイミングでのリリースですね。
『R.I.P.』は去年の秋にリリースさせて頂いたので、年明けてすぐだったかなと思います。
――『怒り』をテーマにした前回とはガラリと違って、今回はバラード。シングルとしてのバラードは初めてですか?
そうですね、ReoNaとしてここまでストレートにバラードを歌うのは珍しかったかもしれません。
――どんなプロセスを経て出来上がった曲なんでしょう。
『シャングリラ・フロンティア』はもともとコミックスで読んでいて。ReoNaとしてこの作品とどう寄り添おうか考えた時に、物語の想いに寄り添いたいなと思ったんです。アニメの中で描かれるシーンに大きな別れがあって、では「ReoNaにとっての別れってなんだろう?」ってところから、私自身が経験した祖父との別れを思い起こして、亡き祖父に実際に手紙を書くことから曲の制作がスタートしました。
――歌詞はハヤシケイ(LIVE LAB.)さんとの共作ですね。
最初はメロディとかいっさい考えず、ほんとに手紙を書いてハヤシケイ(LIVE LAB.)さんにお渡しして、ケイさんと歌詞に落とし込んでいきました。
――ガジュマルって響きにインパクトありますが、奄美大島の実家の庭にあるんですってね。
ほんとにお家の庭に生えてて、人が寝そべれるくらいの木陰を作ってくれる大きさのガジュマルなんです。奄美大島は暑くて夏場は木陰で過ごすことが多くて、物心ついた時にはじいじの憩いの場みたいになっていて、記憶のモニュメントみたいな感じです。ガジュマルって上から根がたれてくるんです。
――奥が深い樹木ですよね。
とくに寒い地域だと育てるの難しいかもしれないですけど、すごく生命力が強いので、歌詞にも出てくるんですけど、根がたれる姿にあやかって、別名レインツリーって呼ばれるんです。二つとして同じカタチの木はなくて、自分の家にあるガジュマルが自分にとってのガジュマルというか。
――ガジュマルの撮影場所はもしかして奄美大島ですか?
場所は南の島、とだけ。想像するガジュマルがなかなかなくて。すごくたくさん探していただきました。
――ピアノとストリングスが美しい楽曲に仕上がりましたね。今回伝えたい人が明確にイメージされる中でのレコーディングになったんじゃないですか?
今までも各楽曲歌う中で届けたい相手はイメージしてたつもりだったんですけど、届けたい相手をリアルに想像して歌うのはすごく新鮮でした。
――やはり暗い中で。
暗さは曲によってまちまちなんですけど。歌詞も見えなくてもいいくらいほんとに真っ暗にする時もあれば、ほんのり薄明かりの中で歌う曲もあって、この曲の時はそこまで暗くせず、没入はできるけど空間はわかるような暗さで歌いました。
――”伝えたかった 愛の歌を 僕は歌うよ”。この最後のフレーズで涙を振り切ってるような。せつないけど力強さも感じます。
やっぱり音楽がなかったら伝える手段とか気持ちをカタチにする手段ってきっとなかったんだろうなってすごく思いました。
――続いての「じゃあな」は、ライブの最後に投げるセリフがそのままタイトルに! こちらの歌詞は毛蟹(LIVE LAB.)さんとの共作です。
ずっとライブの最後に言い続けてきた言葉なんですけど、毛蟹(LIVE LAB.)さんは私がデビューする前の人生初めてのオリジナル曲の作詞・作曲・編曲を手掛けて下さった方なんです。デビュー前から含めると七年くらいかな?ご一緒させて頂いてるんですけど、今回は作って下さいとお願いしたわけじゃなくて、毛蟹さんから”じゃあな”って言葉が含まれてる楽曲がぽんと上がってきて、そろそろ「じゃあな」って曲があってもいいじゃない?って言われた気がしました。
――じゃあな、って別れの挨拶ですけど、余韻のある言葉ですよね。
またね、も含んだ別れの会話ですよね。ライブの最後に言うたびにひとつ思い出せることが増えました。
――今回はカバー曲も。さだまさしさんの「不良少女白書」。名曲ですね。
私はもともとカントリーが好きなんです。メロディの中にとりとめのない日常の悲しいことや辛かったことを歌っていたりして、自分の好きな音楽のルーツにカントリーがあると思っていたんです。カントリーを聴いていくうちに、日本のフォークソングにも辿り着いて。絶望系アニソンシンガーのReoNaにとって、さだまさしさんは絶望系の大先輩だよね?って話になって、そこからさだまさしさんを聴くようになってこの曲にたどり着きました。
――この曲を初めて聴いた時の感想は?
”不良少女”とか”白書”って言葉が、私たちの世代ではそんなに耳馴染みのない言葉なんですけど、描かれてる感情ってまったく世代を感じさせない。今の世代にも、これから先、少女と呼ばれる子たちにも、きっと変わらず抱かれ続ける思いが綴られてるなって、あ、わかるなって。
――自分の少女時代と重なりますか。
そうですね。それこそ”不良”に変わる言葉が細分化して別の言葉が付けられてたりしますけど。実はレコーディングする前にライブで歌わせていただいていて。
――昨年のアコースティックライブでしたね。
そうなんです。この曲を編曲して下さった荒幡亮平さんと、ギターの山口隆志さんと3人で『ふあんくらぶ』ツアーで毎回セットリストに入れていた1曲なんです。ReoNaだったらこう歌うだろうって思ってたカタチにあまり違和感がなく、最初からすっと歌えました。
――ライブでカバーしている時点でシングルに収録しようって思ってたんですか?
なかった気がします。ライブでの反響の中で、新曲だと思った方がいらしたみたいです。
――ほんとに持ち歌みたいにハマってます。
恐れ多いです。こんなに心に染みる素敵な曲があって、こんなに共感できる曲があって、ReoNaが歌うことによって、まだこの曲に出会ってなかった人が出会ってくれたら嬉しいなって思います。
――かたや期間盤には「3341よ」が収録されています。”さみしいよ”と読ませるのはポケベルを彷彿する世代も(笑)。
数字を当て字にするっていうのは、私たちにとっては新鮮でした。作詞・作曲・編曲のPan(LIVE LAB.)さんは、実は私よりも若い方で。
――そうなんですか!
タイトルは制作チームで話してる中で決まったんです。Panさんとしている中で、孤独感や、その人にしかわからない不幸があっても言えないことがあるんじゃないかって。恵まれているように見えてもその人にしかわからない過去や痛みがあって、自分の置かれた状況が周りからみたら幸せかもしれないけど、不満を言ってはいけないみたいな気持ちになる瞬間があるんじゃないかって。
――『ガジュマル』にも通じる、もどかしい思いが綴られてますよね。
言いたいんだけど言えない、伝えたいけど伝えちゃいけない気がする。その天邪鬼さみたいだったり、素直になれない思いをタイトルにしようってなった時に、この数字の案がぱっと出てきて、みんなで、それだ!って。
――”愛してる”とか”会いたい”という気持ちを数字で表していた時代も、まさにはがゆかったなって思います。
その当時も楽しそうだなって思います。今は写真も動画も全部クリアに届けられますからね。でも私、意外と小さい頃、電話番号を必死で覚えて公衆電話からかけていたりしたんです。あの頃はあの頃で楽しかったなって思います。
――これら新曲を引っさげて、5月から5th Anniversary Concert Tour『ハロー、アンハッピー』が始まりますね。
昨年の8月にデビュー5周年を迎えさせて頂いて、今回のツアーを巡って5周年イヤーの締めくくりになります。『ハロー、アンハッピー』という言葉もずっと掲げて活動してきて、私をひとつ象徴する言葉でもあると思っているので、その言葉とともに5年間の軌跡を、5年間の間にお届けしてきたもの、みんなと出会えるきっかけになったものを、改めていろんな街にお届けしに行けたらいいなと。
――昨年は5年間の奇跡をまとめたアーティストブックもリリースされてますね。今までをふり返る一年になったんでしょうね。
限られた時間の中でこの5年間をライブというカタチに落とし込んでどうお届けしようかというのは今もすごく考えながら作っているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
――最初にステージに立った時と今とでは違いますか?
全然違うかもしれないですね。もちろん変わってないこともたくさんあるんですけど。いつも今日が終わったら喉潰れてもいいってくらい全部ステージ上に残していきたいって思ってて。今日来て下さった方がもしかしたら最後になるかもしれないとか、反対にずっと来てくれるかもしれないとか、いろんな人の人生の1日を預かってるんだってことを思って歌っているんですけど、そこに対しての考え方の幅が広がったと思います。
――いい意味で余裕が出てきたんじゃないですか? 俯瞰で見られる自分がいるとか。
右も左もわからずただただがむしゃらっていう頃からは、少し考えられる余裕? 余裕ではないのですが、、、
――ライブというと昨年は武道館にも立ち、手応えを感じたんじゃないですか?
武道館はタイトルを『ピルグリム』にさせていただいて、これはReoNaが初めてアニメと一緒にお届けした楽曲のタイトルです。今までの集大成でありつつ、新たなスタート地点として紡ぐ一日。ここから先の未来も感じて欲しいという想いも込めて挑みました。
――かたやアコースティックライブもありました。
アコースティックはデビュー当時から大切にしてきているもうひとつのカタチです。武道館でのワンマンライブを終えて、もうひとつの原点に立ち返ってアコースティックツアーで全国に、そしてふあんくらぶ(公式ファンクラブ「ふあんくらぶ」)のあなたに会いに行くツアーでした。
――そもそも絶望系アニソンシンガーという肩書きはどこから?
デビュー前、私自身も家庭や学校で悩んでいる時期、“失恋の痛みに寄り添ってくれる失恋ソングは沢山あるのに、絶望に寄り添ってくれる絶望ソングはどうして多くないんだろう”と思ったのがきっかけでした。自分の痛みだったり、絶望に寄り添うような音楽を届けたい。絶望系アニソンシンガー、その言葉にふさわしい活動をこれからも歩んでいけたらと思います。
――ここまで絶望と向き合うシンガーさんもなかなかいないです。引きずられちゃったりしませんか?
楽曲制作の中で昔のことを思い出したりすると心が引き戻されちゃう時もあるんですけど、その先には音楽というカタチにしてくれる人が身近にいてくれることや、楽曲を受け取ってくれたる人がいる。だから向き合い続けられるのかもしれません。
――カタチにしてもらえることで救われる人は間違いなくいると思います。
失恋したときに、悲しい失恋ソングを歌ったり、聴いたりすると楽になるときがある気がして。絶望も、絶望しているときにもっと悲しいお歌、もっと絶望なお歌があれば。頑張っているときに、頑張れって言われるのが一番きついと思っていて、「そうだよね、わかるよ。」っていうお歌が歌いたい。そう思って歩んできました。そして、絶望系の轍を歩んでいく中で、絶望にもグラデーションがあるんだなって気づいたんです。名前がつくような大きな絶望もあるし、名前もつかないような絶望もあって。名前がないからこそ、それが苦しいこともあって。携帯を落として割れちゃったとかも絶望で。そんな絶望に寄り添ったお歌が誰かの痛みに寄り添えたらいいなと思います。
――小さい絶望も実は身近にあって。
絶望の中にも振り幅があって、寄り添える幅ってすごく広いなって思いました。
――では最後にライブに向けて意気込みをお願いします。
名古屋公演は7月。全国各地を巡ってから伺うので、きっと『ハロー、アンハッピー』というツアーは今の私が想像していない所に育ってるんじゃないかと。どんなカタチになるか始まってみないとわからないところもあるので、名古屋でぜひ見届けて頂けたら嬉しいです。
インタビュー・文/深見恵美子