2019/11/18 16:00
一時活動休止を経て、THE PINBALLSが再びギアを上げた。
しかも最強のシングル「WIZARD」を引っさげて。
ここには古川が再び歌えることの喜びに満ち、まさに魔法と呼ぶに相応しい4曲が揃っている。
12月のライブも彼らの魔力にかかるに違いない。
新作について、ライブについて、メンバーに話を聞いた。
古川貴之(Vo)、中屋智裕(Gu)、森下拓貴(Ba)、石原天(Dr)
古川「魔法といえばって思い浮かんだのが”オズの魔法使い”」
――まず魔法をテーマにしたいきさつから教えてください。
古川:まずタイトルから考えていって、セルフタイトルのシングルにしようと思ってたんです。毎回そういう気持ちで作るんですけど、自分たちのバンド名の元となったザ・フーの「ピンボールの魔術師」っていう曲があって、僕たちの中でウィザードっていうのがバンド名と同格くらい大切な言葉ではあるので、まず今回のテーマは魔法にしようと思ったんです。
――バンド名といえばブランキーの「死に神のサングラス」も絡んでますよね。
古川:あと村上春樹さんの小説「1973年のピンボール」もそうで、バンド名を決める時に、共通して好きなものにはなんかあるんだということでピンボールっていう単語がはまったんです。でも『トミー』(ザ・フーの名作ロック・オペラ)って素晴らしいと思うんですけど、音楽的にちゃんと聴ける感じではないんですよ、実は。だけど『トミー』の中で「ピンボールの魔術師」は歌詞とかストーリーの背景とかロックオペラの中ですごくささって。目も見えないしあらゆる感覚を奪われているけど、ピンボールだけは魔法のように上手いっていうのがなんか象徴的で、印象に残ってたんですよね。
――最初にタイトルナンバーである「WIZARD」がガツンときますが、他のメンバーにもすぐに意図は伝わりましたか?
森下:ある程度ヴィジョンが見えた状態で取りかかりました。単語一つでわかりやすいものだし、バンド名に由来してることもあるし、まあ、古川の意思もあって、僕らバンドとしてもすぐに共通認識できました。
石原:僕はもうフルの言ってることは天才的だと思ってるんで、よくわからなくても、なるほどねって思いながら自分のできることをぶっ叩くって感じですね。
中屋:同じです(笑)。
――ありそうでなかった疾走感じゃないですか?
古川:最初は頭で何か考えるのではなく、とにかく自分たちの全部を出そうって決めたんです。でもやっぱり頭で考えるのが楽しくなってきて、考えてしまう。そうなるとウィザードっていうタイトルから逆に他のイメージが引っ張られてきて、ライブハウスのドア開けた時にかっこいい音楽が流れてきた時の魔法っていうイメージで、まずは疾走感のあるものを作ったんです。でも全体像としては、もっとおっきな魔法も語ってみたいというか、かっこいいだけじゃなく癒やしの魔法もイメージしましたし、いろんな魔法を作ろうって思いました。
――「統治せよ 支配せよ」のような破壊力のあるナンバーもあり、すごく広げた感はありますね。
古川:いろんな魔法を考えていた中で、魔法といえばって思い浮かんだのが”オズの魔法使い”だったんです。4曲入りのCDなので、”オズの魔法使い”の登場人物、ドロシーとかかしと臆病ライオンとブリキ男、それぞれのテーマソングみたいに1曲ずつ詞を書いていったら面白いかなと思って。
――なるほど、そうなんだ。
古川:オズの国で魔法使いにそれぞれ欲しいものを頼みに行く時に、何が欲しいか考えるんですけど、ドロシーは家に帰りたくて家が欲しい、臆病ライオンは勇気が欲しくて、かかしは知恵が欲しくて、ブリキ男は心が欲しい。そのテーマで4曲書いたんです。
――曲の持つポテンシャルをそれぞれ絶頂まで引き上げたアレンジだなって。
古川:リードギターがアレンジをしてくれるんですけど。
中屋:やってることは多分そんなには変わってないんですけど、1曲目の「WIZARD」は、ギターに関して言えば、いつもと違うチューニングで半音落としてたり、いつものピッチ感とは少し違うものにしてたりとか。2曲目の「統治せよ 支配せよ」はテンポ感が速い。たぶん今までこんなに速かったものなかったんじゃないかってくらいとにかく速いです。なんかわかりやすく振り切ってるかなって感じもしてて、4曲ともバラバラにわかりやすく、アレンジというか、割と素直にやってこうなるのかなって。
――とくに4曲目の「ばらの蕾」は静寂から後半にかけて重厚になり、最後はまた静かに最初の1行で幕を閉じる。この流れに痺れました。
古川:視覚的なイメージがあったんで、今同じ言葉で終わるっておっしゃていただいてすごく嬉しかったんですけど、たとえば1本の植物が荒れ地みたいなところに咲いてて、カメラが花を捉えて、枯れそうなくらい弱々しい植物はブリキ男の淋しい状況と似てるんですけど、そこから辺りを見回すように世界が広がっていって、でも目線はまた最初に始まったところに戻すような視覚的なイメージがあったんです。だから最初の言葉に戻っていくっていうのを視覚的にも感じてました。
――時にたたみかけるように、時にドラマチックに。ドラムに関してはどのようなこだわりが。
石原:こだわりって僕持ったことがないんです。
――こだわりを持たないのがこだわり。
古川:そうだね。
石原:生きててこだわりを持ったことがないかもしれない。ディレクターの人と話して相談しながらって感じです。
――柔軟に動けるようにということですかね。
石原:まあ、いい言い方したらそうかもしれないですけど。
古川:なんて言うんですかね。言葉にするのが下手な人ではあるんですけど、俺と中屋とかでああでもないこうでもないってやってるのをモリがまとめてくれてる中で、ほんとにすべてを受け止めてニコニコしてオアシスになってくれてるっていうか。
石原:僕もけっこう考えるんですけど、答えがないんですよね、いつも(苦笑)。
古川:俺もそういうのを実はすごいことだなって感じてて、3曲目の「bad brain」もそうなんですけど、ロジカルとか正しいこととかいっぱい言ったりとか、考えてそれが合ってるとか、そればっかじゃないなって。この歌は要は石原賛歌みたいな気もしますね。
――「bad brain」はかかしがテーマになってるわけですよね。この歌詞、好きです。”真っ白な花びらが汚れてる それが本当の色だ”。
古川:ありがとうございます。僕も超好きッス。僕が書きました。
(メンバー爆笑)
森下:そうだったんですね(笑)。
――石原さんはメンバーそれぞれのいいところを引き出すのはお上手なのかもしれませんね。
石原:ありがとうございます。
古川:と思いますね。彼がいないと苦しくなっちゃうと思うんですよね。
――では森下さんのプレイについては?
森下:自分のプレイとか心境とかは4曲に振りました。1曲目の「WIZARD」は割と自分の最強スタイルみたいな、これがTHE PINBALLSの森下ですっていうベースを弾いてるし、2曲目「統治せよ 支配せよ」はちょっとダークな僕というか。3曲目「bad brain」はホワイトというか優しみのある、4曲目「ばらの蕾」は無に近い感じですね。邪念を持たずに自然にベースを弾くみたいな、導かれるように曲の世界に委ねたような感じです。
――4曲それぞれにカラーがありますね。
森下:ずっと自分でTHE PINBALLSのベースを弾いてるんで、前作と似てしまう部分とかどうしても生まれてくる中で、あえて自分の感覚を振り切っちゃってやる。喜怒哀楽じゃないですけど4曲がちょうどよくて、そのくらいなら思い切って振ってみようってプレイしましたね。
――曲順については?
古川:最初ドロシーが出会った順番にしようと思って、ドロシーがいて、かかしがいて、っていう風に考えたんですけど、それは捉え方の一つとしておさめておこうと思って。それよりも個の曲の流れを優先したいと思ったんですよね。4曲並べた時に、オズの魔法使いの登場人物だって想像することもできるよっていうそれはあくまで僕からの提案なだけであって、正解じゃなくて、だから曲の並びのおさまりのいい方を優先しました。やっぱ自由に楽しんで欲しいんですよね、結局は。
――内容が濃いので思わずアルバムって言いそうになります。
古川:もうアルバムと言っていいくらいに、実は思ってます。
――しかも初回限定盤には新宿LOFTでの復活ワンマンのライブ音源も収録されています。特別な日でしたよね?
古川:はい、すごい特別で、ほんとに歌ってて気持ちよくて幸せな感じがすごくあって。
――一時活動休止したことによって改めてメンバー内で話し合われたこととかありますか?
古川:常に話し合ってはいるんです。昨日も話し合いましたし、たとえばリハーサルに入って、ほんとに涙を流しながら話し合ったりもしますし、それは別に喧嘩したとかじゃなくて、俺こういうものが格好いいと思うんだよねって話した時になんか涙が流れてきたりして。
――その時から今はメンバーがすごくいい状態だって言ってましたね。
古川:リハで泣くのはすげえいいと思ってるんです。俺は好きです。そんだけ本気で自分の気持ちが動いてるんだと思うんですよね。
――以前、古川さんお一人にインタビューした時、自分は中屋さんとは性格が真逆とおっしゃってまして、自分はたくさんの種類の花を咲かせたいけど、中屋さんはバラを1本どーんと植えたいタイプだと。
古川:前、そう言いましたね。
――それを受けて中屋さんは?
中屋:そうかもしれないですね。
古川:ま、勝手に僕がイメージしたやつでね。勝手にお前をバラ1本タイプにしちゃった(笑)。
森下:家でむっちゃ植えてるかもしれない、多種類にわたって(笑)。
古川:花柄のシャツはめっちゃ持ってます。
――今日着てらっしゃるシャツも花柄のような。
中屋:(シャツを見て)これは花柄、ではないんです。何柄でしょうか(苦笑)。
中屋「名古屋にはたぶん少し特別なものが気持ちの中にあるのかなって」
――最新作を引っさげて12/13クアトロでライブがあります。どの曲が化けそうですか?
古川:「ばらの蕾」はライブでやるの難しそうなんですけど、一番そういう可能性があるし、かっこよくできたらいいなと思ってます。
森下:そうですね、4曲目ですね。
――ライブでは魔法感をどのように演出しようと。
古川:魔法って最初はサーカスみたいな、ぱんと開けた時にきらびやかなイメージ持ってたんですよ。花もパーンと出てきて、めくるめくような幻覚があって、セットも豪華でオペラみたいに作りこまれていたり。そういう世界を歌で作り出すんだって気合いを入れてやってたんですよね。でもたとえばピンボールマシンを置いてみんなを楽しませる、みたいなイメージを持ってたのは、なんでかっていうと、たぶん不安だったんですよね。俺の歌だけじゃ魔法は見せられないと心のどこかで思ってたんですよ。セット大きくしてみたいなとか、こんなことしてみたいとか想像は膨らむけど、実際はメンバーが立って演奏をするのが現実的で、それがロックンロールだと思ってるんですよ。
――はい。
古川:でもおそらく自分が持ってるイメージに負けたんですよ。喉がおかしくなったのもたぶん無関係じゃなくて。それで喉が悪くなったわけではないんですけど、たぶん勝てなかったんだと思います、そのパワーに。だけど手術して復帰してワンマンやらせてもらった時に、俺が思ってる魔法がちょっと変わってたんです。みんなと会えて、歌が唄えて声が出て、みんながいてくれる、ささやかだけど、それが奇跡的に感じたんですよ。そうすると魔法ってもっと身近な、こうやってお話できてるのも、健康で会えるっていうのも実は奇跡的じゃないですか。日常で話してることも大したことないと思いつつ、魔法的なんじゃないかっていう気持ちに切り替わりました。
――魔法は日常に転がってる。
古川:宝くじ当たるとか、そういうのじゃなくても、今日朝目覚めたのも魔法的かもなって。
――最近皆さんに聞いてるんですけど、いいライブの条件とはなんだと思いますか?
古川:それもずっと悩んでて、やっぱいい歌唄って声が出てて、いいパフォーマンスが100点で出来るっていうのは絶対だと思ってるんですけど、昨日も中屋と喋ってて、中屋が言うには、何をテーマに持つか自分の身体からはっきりと発してるべきだと言うんですね。じゃあそのテーマをはっきりさせるとしたら、僕はまずは4人音を合わせてることが幸福だとほんとに思いたい。だからほんとに心の底から思ってる状態に持っていきたいと思ってます。声が出なくて一番最初に歌えた時に、あ、やっぱり気持ちいいなって。その時の感動がけっこうあって、やっぱ俺歌好きだし、歌うのって気持ちいいわ、単純に。そこにたまたま人がいて欲しい。そのために自分をそこに持ってきたい。
中屋:いいライブの条件って難しいですけど、やっぱり会場に来てくれる人たち、メンバーも含め、もっと言えばそこに携わってくれてるスタッフも含め、楽しいなって思えればそれはそれで正解で、それでいいだけの話なんですけど。自分も客として観に行ってて、声出すだけでも気持ちがすっとして楽しかったりするじゃないですか、そういうのもあるだろうし、後ろの方でこいつらカッケーなって観てるやつもいるだろうし、楽しみ方なんて人それぞれですけど、理想で言えば、全員が楽しい空間を作れる。楽しいって言葉じゃなくてもいいんだけど、一番簡単な言葉だから。
――ライブでの中屋さんのパフォーマンスはすごいですよね。お客さんの頭上でギター弾いちゃう。
中屋:とても失礼な(笑)。気持ちがノッちゃってというか、支えて欲しいなって。
――どんなステージになりそうですか?
古川:前回のツアーから世界一かっこいい歌を唄うっていうのを自分の尻を叩くためにも言ってたんですけど、それプラス自然な自分でいたいなって。その日、世界一かっこよくなるのが当たり前でいたいなって。それができたら最高だなって思っています。
――では最後にこのエリアの皆さんにメッセージをお願いします。
石原:あんかけパスタ、食べます。
メンバー:食べます?(笑)。
――食べたことは?
石原:ないです。
――名古屋を知るために、ファンとの距離を縮めるためにも、あんかけパスタを食べます。そう受け止めさせていただきます(笑)。
石原:はい。
森下:そんな思い(笑)? 名古屋は古川の喉の件で公演を中止したことがあったので、新宿ロフトの時の復活というか、ただあれも特別なライブではあるけれど、特別なものにはしたくない。ライブをするのが当たり前であり、特別な日、特別な空間にはなるけれど、そういうスタンスではやりませんと。今までどおり、今まで以上のかっこいいライブをするだけです。名古屋にもいろんな思いがあるけれど、今までよりかっこよくなって名古屋に帰ってきたTHE PINBALLSを観せたいです。
――今回は2manですね。
森下:今回はゲストバンド(w/Suspended 4th)がいるので、そことも一緒に最終的にTHE PINBALLSが作り上げていく、最後をぴしっとしめるライブをしたいです。今まで僕ら主催で2manツアーやったことないので、そこも楽しみではあります。
中屋:こういう言い方はかっこわるいからあまり好きじゃないんだけど、名古屋はたぶん関東以外のライブで最初に受け入れてもらえた土地というか。そういうのって活動していく上でどこかしら残ってて、少し特別なものが気持ちの中にあるのかなって。
古川:矢沢永吉さんの『アー・ユー・ハッピー?』って本読んでたら、”サンデーフォークで名古屋を”とか書いてあって、歴史はそうやって作られてるんだなって思って、今はそういう自覚を持ってやりたいなって思いました。
インタビュー・文/深見恵美子