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「感性が死んでしまう時代だからこそ、感性が生き続けるためのヒントになればいい」the chef cooks meインタビュー!

2019/11/06 14:30


the chef cooks meが6年ぶりとなるアルバム「Feeling」をリリースした。前作のフルアルバム「回転体」は各所で名盤と謳われた作品であったが、それ以降メンバーの脱退やボーカルの突発性難聴など数々の危機にバンドは直面してきた。それでもバンドの中心人物であるシモリョーこと下村亮介はthe chef cooks meを辞めることなく、例えメンバーが自身だけになってもthe chef cooks meとして音楽を鳴らすことを選び、このアルバムに辿り着いた。今作には盟友とも呼べる世武裕子、imai、YeYe、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)など数々のミュージシャンが参加している。下村にとってこの6年はどういった時間だったのか、そして完成した「Feeling」に込められた思いとは? じっくりと語ってもらった。



「自分のやりたい音楽をやりたいように形にしたアルバム」


――前作から6年という月日が流れましたが、その間にバンドにはメンバーの脱退など様々な出来事がありました。シモリョーさんにとってこの期間はどういった時間だったでしょうか?

メンバーも30代半ばに差し掛かって仕事や家庭のことで辞めていく事が重なって、そういうタイミングだよなって思いながらソロ・プロジェクトを立ち上げようと思った時もありました。そんな中で “あれから時間も経ったな、歳もとったな”と思った時に、第一線のロックバンドとして活動するのではなく自分のやりたい音楽をやりたい形でやろうと決めました。そうした精神で音楽活動をしてきたのが、ここ2年ぐらいの話なんです。だからこのアルバムの曲は締切もない中で伸び伸びと作ったものばかりなので、何か強いメッセージ性を伝えたいとか、強い目的をもって作られた作品ではないんです。

――今回の楽曲は「Feeling」の前にリリースされた「回転体」や「RGBとその真ん中」とは音楽性が違うものになっていますが、それはバンドがシモリョーさん一人になったことも影響していますか?

そうですね。さきほど話した自分のやりたい音楽を好きなように作るという事は根底にある中で、音楽の作り方は大きく変わりました。基本的に宅録で作っていて、家でヘッドホンをしながら気づいたら何十時間と経っている、みたいな事が何度もありました(笑)。意識して音楽性を変えた訳ではないんですけど、自然と自分のモードとともに出来上がる曲や選ぶ音が変わっていきました。


「どういう場所にいても鳴らす音楽がベストであればいい」


――音楽性の変化が訪れたのは今作の1曲目である「Now's the time」が2018年にリリースされた時ですが、この曲が完成したことはシモリョーさんにとって大きかったでしょうか?

前までと全く違うサウンドとは言いませんが自分の趣味が大きく反映された曲なので、完成した時に“やっとできた”と思ったのは覚えています。この曲がでた時はベースが抜けてギターの佐藤と二人になった時期で、バンドの内部としてはこれからどうする?って時だったんです。さらに自分も突発性難聴を乗り越えたばかりだったので、バンドのことをネガティブな目線でみてほしくない気持ちもありました。

――そんな中で完成した曲は今のシェフにとってアンセムと呼べるものですね。

先ほど言った“自分のやりたいことをおもいっきりやる”という事は、一見閉じているスタンスにも見えるんですけど、これだけ開けた曲が書けたのは自信になりました。

――「回転体」がバンドの認知度をあげる名作と呼ばれたからこそ、方向性の違う「Now's the time」を世にだすまでに葛藤はありましたか?

ありましたね。「Now's the time」をリリースする前に3曲目に収録されている「最新世界心心相印」をリリースしたんですけど、そこではシンセポップなサウンドを展開していたのでそこからの「Now's the time」って本当にめちゃくちゃなんですよね(笑)。前まではサウンドや歌詞の統一感をとても気にしていたんですけど、今はもっと自由でいいかなと思っていて。音楽をやる上で大前提として僕自身がただの音楽好きであって、その上でアジカンさん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)やチャットモンチーさんなどのサポートメンバーとしてバンドに関わらせてもらう事があって、“俺がフロントマンだぜ!”というノリでは全然ないんです。どういう場所にいても鳴らす音楽がベストであればいいという思考になったのは後藤さんの影響が大きくて。そう考えていくと自分が作った音楽というよりも、できた音楽がより良くなるためにどうしたらいいだろうと突き詰めるようになって。それで今作には多くの仲間のミュージシャンに参加してもらっているんです。だからエゴイスティックな部分がだいぶ減ったというか、それが良いことなのか悪いことなのかはあんまり分かっていないんですけどね(笑)。

――そうした中でなぜソロ・プロジェクトではなく、the chef cooks meとして音楽を鳴らすことを選んだのでしょうか。

屋号を一度捨てることも考えたのですが、活動が長い間止まっていたりメンバーが抜けたりしても、the chef cooks meのライブに足を運び続けて応援してくれるお客さんの顔が浮かぶんですよね。それで解散という事にして名義を変えてしまうと少なからずそうした方たちが寂しい気持ちになると思ったんです。それにこれまでの日本や世界のバンドをみてもメンバーが一人になっても継続するバンドってあんまりいないと思ったので、それならこの屋号のまま音楽をする方が面白いと感じたのが理由です。


「やっぱり自分は他人と音楽をすることに喜びを感じる」


――先ほど名前がでてきた後藤さんなど多くのミュージシャンが参加している事も今作を語る上では欠かせないですよね。

そこはタイトルの「Feeling」のように“あの人と一緒に音楽をやりたいな”と思い浮かんだら次々に声をかけさせてもらいました(笑)。誘った方は僕が全員ファンなので、曲に対して好きにやってもらえば自分の好きな音楽になるだろうという信頼関係の上で作っていきました。

――シモリョーさんは作詞作曲をしながらもエゴイスティックになりすぎないですよね。それがthe chef cooks meの音楽が多くの人に響くことに繋がっているのかなと思いました。

そこは僕のミュージシャンとしての在り方の中で胸をはっていえる特徴的な部分だと思っています。曲は自分で作っていますけど、the chef cooks meの音楽は周りの人のおかげで成立できている部分が大きいんです。だから参加してもらったゲストミュージシャンの方に曲を渡す時も、「シェフの世界観を意識しなくていいですよ」と伝えました。結果的にそれがすごく良い方向に作用したし、シェフにない部分を補ってもらえたと思っています。それって社会そのものだし、すごく健全ですよね。そして、完成した音源が出来上がったことを皆で心から喜び合ったんです。それはバンドを長く続けていると照れくささがあって、できなくなってしまっていたことだったからすごく嬉しくて。やっぱり自分は他人と音楽をすることが一番大好きだし、楽しいんだなと改めて気づいた瞬間でした。


「自分の感性のままに感じたことを大切にして聴いてほしい」


――世武裕子さんが参加しているアルバムタイトルと同じ楽曲の「Feeling」がインスト曲だったのはとても驚きました。

「Feeling」というタイトルは全曲出揃ったあとに生まれてきたんですけど、はじめてアルバムタイトルが良い意味でなんでも良いなと思えたんです。曲のイメージって言葉や歌詞がついているとそれにすごく引っ張られると思うんですけど、僕がこのアルバムを通して願っていることは共鳴や共感ではないんです。このアルバムを聞いて何かしらのヒントを得たとか、こういう歌詞が面白いとか、ここは自分のことになぞらえる事ができるとか、自分の感性のままに感じたことを大切にしてほしくて。だから「Feeling」っていうタイトルを曲で説明したくないと思ったから、世武さんに頼んでいたピアノの音を聞いた時に“これだ”と感じて。このピアノの音色を聞いた時に色んな人がそれぞれの感覚で捉えてくれるだろうし、言葉のない自由さが自分のイメージしている「Feeling」というタイトルにぴったりだったんです。制作中に行き詰まった時に世武さんから送られてきたデモ曲を何度も繰り返し聞いていたんですけど、心の浄化作用がすごくて(笑)。自分自身がこのピアノのメロディーにすごく救われたので、皆にも聞いてほしかったのもあります。この音色を聞いて何を感じるんだろうと。

――シモリョーさんは音楽とナチュラルに向き合えている今のモードを大事にされているんだなと思いました。だから聴いた人にとっても押し付けがましくなることを避けているというか。

それはめちゃくちゃ大事ですね。今の時代って調べれば基本的になんでも分かるじゃないですか。例えばこの鞄がどこで作られているかと知りたくなったら、スマホで写真をとって画像検索したらでてくるわけで。ただ便利になりすぎているがゆえに僕たちはそれすらもどんどんしなくなっていってるんですよね。昔だったら必死に探していた音楽も、今はその必死さがなくなっていて。それって“感性で感じようとしていない”ということだと思っていて。便利さにあぐらをかいてしまうことが、何より感性を殺しているなと思ったので、今これを説明している自分もさむいなとは思っているんですが…(笑)。だから放っておくと勝手にどんどん感じることが下手になっていく時代なので、そこにちょっとだけ、なるべく柔らかにサインを出したかったというのはあります。音楽はそういう手段としてはめちゃくちゃ良いツールだと思っているので。

――ああ、すごく分かります。

感性ってなくなってしまうというよりかは、持っているけど放出できなくなってしまうんでしょうね。どんどん生きていくうちに見えないところに隠れていってしまうものだけど、いつでもその引き出しを開ければ溢れてくるんですよね。それを今の時代は色んなことがそうさせないようにしている気がするから、感性が生き続けるためにもこのアルバムが何かのヒントになればいいなと思います。


インタビュー・文:菊池嘉人



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the chef cooks me Official Website >> http://thechefcooksme.com
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