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生々しくストレートな弾き語りが醍醐味。阿部真央がデビュー10周年イヤーに18thシングル発売&弾き語りツアーを敢行。

2019/09/13 18:00


今年デビュー10周年を迎えたシンガーソングライター・阿部真央が、18thシングル「どうしますか、あなたなら」を8月21日にリリースした。今作は、多部未華子主演のNHKドラマ10『これは経費で落ちません!』の主題歌として書き下ろしたもの。完璧主義な原作の主人公と阿部自身の共通点から考えた歌詞の中で彼女は、完璧な自分を諦めることを“勇気”と言う――完璧であることに縛られ窮屈になっている人々の肩の力をほぐしてくれるようなパワーソングとなっている。そして、そんな今作の成り立ちや10年間の振り返りを話してもらう中で確信したのは、15年、20年後も彼女は変わらず歌い続けているであろうということ。10周年イヤーを駆け抜ける最中、その先の未来へも想像を膨らませられるようなインタビューとなった。



自分とストーリーの、重なっている部分をトリミングしてパッケージした


――今作はドラマ主題歌の書き下ろしですが、物語からどんなインスピレーションを受けて制作されましたか?

原作の小説を読み込んでいく中で、初めの数話全てで「どうしますか、森若さん(主人公の名前)」というワードが出てくるんです。それは例えば、登場人物が実際に言うセリフだったり、目配せをして(心の声で)言ったり色々なんですけど、そこから森若さんという主人公は、みんなに頼られているということが透けて見えてきました。原作者の青木先生もそう押し出していきたいんだなということも私は勝手に思ったので、そういうところからヒントをもらいました。

――それでタイトルやサビの締めである「どうしますか、あなたなら」というフレーズが生まれたんですね。

「どうしますか、森若さん」って、私は私で違う意図を込めて使おうと思って歌詞に入れたんです。主人公が、自分とはこういう人物でこういう生活のルーティーンが心地良くて、こういうものが好きって全部ガチガチに頭で決めちゃってるような完璧主義な人で、確かにそれが心地良い彼女もいるんですけど、「自分は完璧だ、完璧だ」って言い聞かせてる描写も多くて。ガチガチに固めた生活は心地良い一方で、どこか「本当にこれでいいのかな?」って思ってる自分がいる。そういう自問自答って、彼女のように29歳で彼氏がいなくて結婚もしていないっていうアラサー女子が環境的に誰しも感じるような悩みや疑問だと思うんですよね。

――阿部さんも主人公とは同い年ですよね。

同い年ですし、完璧主義なんだけど「これでいいのかな?」、「こういう自分をやめちゃいたいな」ってたまに思う彼女の心情にすごくシンパシーを感じました。なので、その共通点を掘り下げていけば、ドラマにも寄り添えて、ちゃんと阿部真央の曲単体としても成立するものになると思いましたね。

――阿部さんの楽曲は、実体験を落とし込んだリアルな歌詞の印象が強いですが、「YOU」あたりからはフィクションを織り交ぜるようにもなりましたよね。今作は物語に寄り添ったということもあり、リアルとフィクションのバランスはどう感じていますか?

2つある円の一部が重なっているグラフ(ベン図)ってあるじゃないですか。ああいうイメージです。だから半々でもなくて、重なっている部分をトリミングしてパッケージした感じ。こっちは私の話、こっちはストーリーの話という感じではなくて、どっちで聴いても当てはまるものを目指しました。タイアップでは毎回すごくそれを目指すんですけど、今回は特に主人公の環境が近かったのもあって、かなり重ねて書けたと思いますね。


自分の手元を離れた曲はどう聴いてもらってもいい


――「ダメな自分も愛せる生き方を」というフレーズがありますが、阿部さんは自分のことを完璧じゃないなと思うことがあっても吹っ切れるタイプですか?

今はそうなりつつある……というか、できる日も出てきたって感じですかね。

――ではこのフレーズは、ご自身に言い聞かせるようなニュアンスもありますか?

そうですね。どちらかというと、自分が言ってもらいたい言葉を自分で書いてるタイプの曲だと思います。もちろん主人公や、同じように悩んでいる人にも届いてほしいんですけど、自分自身も鼓舞しているって感じですね。

――“なりたい自分”と“実際の自分”。そういう理想と現実のギャップみたいなものって、ちょうど阿部さんがシンガーソングライターとして活動されてきた10代後半から20代あたりで、誰しもがぶつかる人生の課題ではないかと思うんですよね。どう折り合いをつけていくか。解釈によっては“妥協”とも言われてしまう選択を「完璧な自分を諦める“勇気”」と言ってくれる、その肯定力は絶大だなと感じました。

ありがとうございます。でも「完璧な自分を諦める勇気」、そして「ダメな自分も愛せるようになったら楽かもね」、「そうなったら人として魅力的かもね」っていう気持ちは確かに込めてるんですけど、それってすごく私の主観で押し付けたくはないんです。自分の手元を離れた曲はどう聴いてもらってもいいと、この曲に限らず毎回思っていて。メッセージをストレートに読んで共感してくれたらそれはもちろんうれしいし、そうじゃなくても歌詞のリズムの小気味良さや声が好きとかなんでもいい。デビューしたときから一貫して、自由に聴いてほしいと思っているので、聴き方は託しちゃってます。

――Bメロの最後の「違うかな?」などのフレーズから、「こうだ!」と言い切らず、リスナーに受け取り方を委ねているニュアンスは感じますね。

そうですね。それでいて、引っかかる人には深く響いてくれたら、すごくうれしいです。

――MVも面白かったです。楽曲そのもののメッセージ性とは一味違ったシュールな仕上がりで。

シュールですよね(笑)。実は、前作から“ミュージックビデオ”の在り方というのをすごく考えています。本人が主体で、いっぱい映って、綺麗に見せるという所謂“プロモーションビデオ”と言われていたものが、私も多かったんですけど、そうすると阿部真央のファンの人しか見ないなと気付いたんです。せっかくYouTubeでも公開していて、世界中の人が観られる環境にあるなら、私のファンの人が喜ぶだけでなくて、映像としても面白いものを作ろう。逆に「この映像なんなんだ?」から入って、結果的に曲を知ってもらう方が効果的だと思って。だから今回のMVも、ひとつの映像作品としてすごくユーモアがありますよね。

――「あなたならどうする!?」という局面のエピソードが無数に繰り広げられて、次に何が出てくるのか気になって、ついつい最後まで目が離せませんでした。

そうそう。そういうトライをしているMVなので、面白いって言ってもらえてすごくうれしいです。


10年続いた理由は「やめようと思ったことがないから」


――9月からはデビュー10周年の原点回帰的な弾き語りツアーが開催されますね。

実はギターってあまり好きでも得意でもないんですよ。そもそも私、“シンガー”にはなりたかったけど“シンガーソングライター”になりたかったわけじゃなくて、ひょんなことでギター持って、曲を書いたら、歌手になれるよって言われたからやっていただけで。デビュー当時は、弾き語りでライブさせてもらうことが多かったんですけど、それも間違えたらバレちゃうし嫌で嫌で(苦笑)。

――今は?

今はまあ10年やってきて、バンドセットでライブさせてもらうことも多くなった中で、やっぱり弾き語りじゃないと伝えられない良さがあるとすごい思いました。声とギターだけだからこそ生まれる緊張感とか、その2つの音だけでどこまで鬼気迫る感じを表現できるかとか……。バンドだときれいに滲んでグラデーションになるものが弾き語りだと生々しくストレートなんで、そこはいろんな人からも評価をいただいて、“阿部真央”の醍醐味として捉えていいのかなと思っています。10年この世界でやってきた阿部真央が、原点の弾き語りというスタイルに戻ったときに、“今、何をどこまで表現できるか”。このライブツアーに来てくれる人には、それを見て欲しいです。

――改めてこの10年を振り返ると、常に順風満帆だったわけでは決してないと思います。喉の手術や、結婚・出産・離婚など、あらゆる環境が変化した中で、それでもこうして歌い続けている。その原動力ってなんだと思いますか?

うーん……(しばらく考えて)多分、“やめようと思ったことがない”ということだと思います。やめたいとふと思ったことはあったけど、いざやめようとは思わなかった。賭け事で、プロの賭け師が負けない賭けをするのと同じで、勝ちに行くんではなくて、負けない賭けをする。負けないということは、=(イコール)大きくなくても勝つってことじゃないですか。だからやめないということも、=(イコール)続けるってことで。続けたいという気持ちよりも、やめようと思わなかったっていうのが一番だと思います。で、そのやめようと思わなかったのはなぜかと深堀してくと、ファンの人の存在があったり、自分が単純にどうせ表現をやめられないだろうとか、いろんな理由はあるんですけど、聞かれて一番最初に思うのは、やっぱり“やめようと思ったことない”からだと思います。

――今のお話を聞いて、阿部さんにとっての音楽表現って、“好き”とか“楽しい”よりももっと本能的なものなんだと感じました。

確かに……。でも好きだけじゃ、やっていけなくないですか? いくら好きでも嫌になりますよ、仕事になったら。

――だからこそ、それを続けている阿部さんは、音楽として歌って表現していないといられない性分だということですよね。これから15年、20年後も、変わらずに続けて行かれる姿がはっきり浮かびます。

そうですね。今まで自分が納得したことしかやってきていない自信はあって、それでやめようと思わなかったんで、そのまま正直にやり続けたいなと思っています。


インタビュー・文/岡部瑞希



New Single 「どうしますか、あなたなら」 Now on sale

阿部真央 Official Website >> http://abemao.com
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