記事詳細

映画音楽作曲家・世武裕子がアルバム「Raw Scaramanga」をリリース!

2018/12/26 18:00

「全身で音楽を浴びてもらいたい。ライブの間は、自分の生活の全てを忘れてもらう。ぎゅっと凝縮された、そんな音楽体験を贈りたい。」


 『日日是好日』『羊と鋼の森』『生きてるだけで、愛。』など2018年に公開された映画だけでも8作品の音楽を担当した世武裕子が10/24にアルバム「Raw Scaramanga」をリリース。

 とにかく気負わずなにも考えずに聴いてみてほしい。目の前に映像が広がり、まるで時間旅行をしながら曲ごとの景色に寄り道をして、そのあまりの美しさにうっとりとしてしまうスペシャルな気分が味わえるから。自分の奥の奥がざわめいて、かき立てられるような不思議な感覚が蘇るから。それはとても豊かで気持ちが良くて、大切なものを想い出させてくれるミラクルを秘めている。

 NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』のサウンドトラックを手掛けた縁でMr.Childrenのアルバムやツアーサポートにも参加している彼女。アルバム「Raw Scaramanga」についてや映画音楽、ご自身の音楽への想いについてインタビュー。2019年は名古屋でライブの予定も!? どんな音楽も(生きかたも)新しい視点でより広がりのある楽しみかたができるような、刺激的な話しをしてくれた。



アルバム「Raw Scaramanga」を10/24にリリース!

「皆んなが本来持っているはずなんだけど、ともすると埋もれがちな想像力を、音楽を使って引っ張り出したいんです。」


――アルバム「Raw Scaramanga」は作編曲、プロデュースのほかに、鍵盤以外もご自身で演奏されているのでしょうか。

基本的には全部自分でやっています。ドラムで2曲参加してもらったクリス・デイブ(Dr)に関しては、「Vega」は全体のアレンジも事前に共有したうえで演奏してもらいましたが、「John Doe」については、ピアノのデモをまず聴いてもらって、前情報があまりない状態で叩いてもらいました。

――最初は「この曲はどういう意図で作られたんだろう」って考えながら聴いていて、そうすると重くなってぜんぜん楽しめなくて。だけど、なにも考えずにまっさらな気持ちで聴くと、曲ごとに映像が浮かんできて、すぅーっとその世界にひたれてとても気持ち良かったです。世武さんは映画音楽の作曲をたくさんやられていますが、曲作りをされるときは常に自分の中に映像があって、それを音で表現していく感じですか?

映画音楽をやっているときは映画の映像があるので、そこに正しいと思うものをつけていく作業です。逆に個人的な作品は、自分の鳴らした音からぐわっと景色が出現するような感覚です。感覚が視覚や景色になったような感じでしょうか。魔法のランプから煙が出てくるように音楽が風景になってく感じです。

――音楽とともに必ず映像がある?

映像があるというより、映像と音楽は同じものなんです。音楽と映像が切り離されていたりことは、今まで一度もないですね。

――それは子どものときから?

そうですね。音楽はわたしにとってずっとそういう存在です。演奏する時もそうですね。まだ子どもでちっちゃくて弾けなかったときも、弾けるようになった今もそれは同じ。「弾けるようになって余裕ができたから想像できるようになりました」っていう進歩の仕方じゃなくて、弾けないながらに「教則本に書かれた平面の世界から解放されたい!」っていう思いの中にいて、クラシック音楽出身なので、解釈の自由さを褒められたことも、注意されたこともありますね(笑)。

――「Raw Scaramanga」は映像が浮かぶと同時に感情も揺さぶられました。感情はどのように音楽に入れていくのでしょう?

感情を音楽に入れていくのは、実は音楽家の仕事じゃないんです。聴き手の心を揺さぶるのが私たちの仕事。厳密にいうと、勿論感情的な作業でもあるんだけど、感情を入れていくという感じではないんですよね。

――想像力が刺激されるし、かき立てられました。アルバムの中ではピアノと歌だけの曲「Bradford」が好きで、今でも想い出すと泣きそうになってしまうくらいいろんな気持ちにさせてもらいました。

ありがとうございます。亡くなった人が生きている人を世界の向こう側で待っているのか、実はその逆なのか、そんなようなことを考えていた時があって。それが「Bradford」という歌になりました。

――生感みたいな空気にぐっとくるんです。「Raw Scaramanga」はどんなコンセプトで作ったアルバムなんでしょう。

コンセプチュアルに世界観を統一するというよりも、色んな雰囲気を持った曲を収録しています。それが、「私の音楽はこうです。」と示すのにしっくりくるなぁと思ったからです。裏テーマは、アルバムの前半に収録されているようなサントラを作りたいと思ってきたので、そういう名刺みたいなものを作っちゃえ!といったものです(笑)。

――テクノだったりピアノだけだったり、歌詞も日本語、英語、フランス語だったりとさまざまなテイストの曲があっても違和感なくひとつの世界になっていて……

1個のアルバムにいろんな曲が入っていて「統一感がない」って言われたりもしたけど、そもそもジャンルに分けて音楽を聴いていない人間が作っているのだから、当然なんですよね。そのひとの精神性がどうなのかっていうところで、精神性に共鳴できる音楽だったらレゲエであってもロックであってもクラシックであってもぜんぶ好きなんですよ。そこがはまらないひとだと「なんかよくわからないな」ってなる。それだけのことです。ロックだから好き、レゲエだからきらいとかそういう感覚では生きていないですね。だから、自分の音楽もジャンルに捉われず、面白かったら、カッコよかったらオールOKという気持ちでいます。幸か不幸か、何やっても自分の色が強く出てしまうタイプなので(笑)、じゃあそういうところで統一感が滲んでいたら自由で良いんじゃないかなって今は思えます。

――世武さんがMr.Childrenのライブに参加されていることが今のお話しで納得できました。Mr.Childrenと世武さんの音楽がわたしの中でつながらなかったから。

Mr.Childrenと私の音楽的な繋がりは、私が一方的に語るべき内容ではないのですけど、メンバーさんが私を迎え入れてくれた理由は、今はなんとなく分かる気がします。最初はちょっと遠慮して意識していました。やっぱり私もMr.Childrenの音楽が側にあって当たり前な中で生きてきた世代だし、私が入ることでそれが崩れていったら嫌だっていうか(笑)。Mr.Childrenは、こんなんじゃない!みたいな(笑)。でも、一緒にステージに立つようになって、心境が結構大きく変わりました。ちゃんと甘えられるようになったというか。ステージの上の純度がすごく高くて、自然にそんなことどうでもよくなっちゃったというか(笑)。

――どんなときも自分を引っこめたりせず、まるごと自分自身で表現できるスタンスがうらやましいです。

最初こそ珍しく遠慮しがちでしたが(笑)、基本的なスタンスとしては、やっぱり長いものに巻かれる事も好きじゃないし、媚びたりするのも好きじゃないんですよね。夏のコンビニの蛍光灯っていうんですか、入り口の青い光にぶつかってってる虫みたいな感じです(笑)。自分の美学と誠実さは、ぶつかりつつも(笑)、本来伝わる相手なら、いつか伝わると信じてやってます。結局、音楽家は音楽で勝負するものではありますけど。


「全身で音楽を浴びてもらいたい。ライブの間は、自分の生活の全てを忘れてもらう。ぎゅっと凝縮された、そんな音楽体験を贈りたい。」


――今年公開された映画だけでも8作品もサントラを手掛けている中、さらにご自身の音楽活動やライブのサポートもされていて、すごく忙しそう。

やろうと思えば、ある程度できるもんだと思っている節があるので、「忙しいからできない」は切り札くらい使いたくない(笑)。2018年は、このスケジュールで作曲間に合う?という中でやってみたいっていうのがあったので、仕事はなるべく受けるスタンスでやってきました。結果、わりと息抜きもしてたっていうか。全体的には忙しかったので、今年何やってきたら全然記憶にないんですけど(笑)、でも前みたいに過労で倒れたりする事もなく、夜中に読書したり、映画館行ったり、登山したり。オンとオフのスイッチの使い分けと集中力ですね、要するに。

――煮詰まったりしないんですか?

煮詰まらないですね。

――え!すごい! 作ったサントラに監督からダメ出しをされたりは?

それはたまにあります。でも、ダメだと言われたものに関しては一瞬で捨てるんで(笑)。あんまり執着ないんですよ(笑)。「ダメだったらさっさと捨てて忘れて新しくやります」っていう。自分の作品をどうでもいいと思っているわけじゃなくて、そういうものだと思うんですよ。出す時は渾身の集中力で狙ってくわけですし、自分から出てきたものの愛おしさはあるけど、そこに固執してたら映画音楽なんてやってられないです、ははは。

――話しは変わりますが、11月にデビュー10周年迎えられて、どんなお気持ちですか?

10周年だからこう、というのはとくになくて、「そりゃ歳も取るよなぁ」って思ったぐらいです(笑)。ただ、音楽でなんとかしようってがんばってた10年前から時間も年齢も経って、いろんなご縁でいろんなひとと知り合えたから、次の10年は音楽とさらにリンクした生きかたをしていきたいです。若いときは、若ければ若いほど年上とか、いろんなひとにもらうことのほうが圧倒的に多かったから、次の10年は自分が与える側にいけたらいいなって思います。

――ライブが来年1/14に東京、2/22に京都で行われます。

名古屋じゃなくってごめんなさい(笑)。でも、どちらも名古屋から日帰りできるような時間帯!(笑)。私のライブ、時間的にはそんな長くやらないです。そのかわり、とにかくディープな世界を全身で浴びてもらう事になります!やっぱりライブの間は、自分の生活とか現実とか、そういうの全部忘れてほしいなって思っていて。ぎゅっと凝縮された、そんな音楽体験を贈りたいです。さっき、「考えすぎると疲れるアルバム」と仰ってましたけど、全然変な意味じゃなくて、当たり前だと思うんですよ。だって、何もかも把握できて共感に包まれた音楽やってないし、やるつもりもないですから(笑)。自分が知らないもの、何かわからないけど迫ってくるものって疲れますよね。そういうものでありたいんです。それって、すっごく素敵な経験だと思うんですよ。私は、何もかも把握できて、自分が知ってるものだけにあふれている世界は気持ち悪いと思っているし、そうやって生きていると、必ず挫折すると思っています。だって、どんなすごい人でも、ひとりの人間でしかないから。そんなわけで、何も考えなくていいし、空っぽでライブ来てください(笑)。気持ち良いですよ。

――ぜひ、名古屋でも。では最後に東海地区のみなさんにメッセージをお願いします。

いろいろこうして話してはみたものの、やっぱりわたしは音楽家なので、音楽を聴いてもらわないことには……っていうのがあるから、やっぱり「Raw Scaramanga」を聴いてもらいたいし、ライブ来てほしいですね。ライブに関しては、会場の場所、価格、時間帯など、来やすい環境づくりを試行錯誤中です。あとは、生涯単位でじっくりとピアノと付き合っていきたいなって思っています。Instagramでピアノ動画もちょこちょこあげてたりするので、もしよかったらそちらも覗いてみてください。


インタビュー・文/早川ひろみ


New Album 「Raw Scaramanga」 Now on sale

世武裕子 Official Instagram https://www.instagram.com/sebuhiroko/
世武裕子 Official Twitter https://twitter.com/sebuhiroko
記事の一覧へ