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「今のKIRINJIのバンド感を詰め込むことが出来た」メジャー・デビュー20周年を飾る、13thアルバム「愛をあるだけ、すべて」を掲げ、7/20 クラブクアトロへ。KIRINJIの堀込高樹と千ヶ崎学にインタビュー

2018/07/05 12:00

PHOTO by YOSUKE SUZUKI

「今のKIRINJIのバンド感を詰め込むことが出来た」



メジャー・デビュー20周年を飾る、13thアルバム「愛をあるだけ、すべて」を6月13日(水)にリリースしたKIRINJI。昨年12月にキーボードのコトリンゴが脱退し、5人体制として新たな一歩を踏み出すことにもなる今作は、生演奏とプログラミングを巧みにミックスしたエレクトロミュージックの傾向の強い一枚となった。経験豊富なキャリアを築き上げていながら、SANABAGUN.やCharisma.comといった若手アーティストと交えて作った曲も収録されており、現状に甘んじることなく向上心を持ち続ける姿勢も感じられる。今回はバンドとしての新たな可能性を見つけることにも繋がったというこれまでとは違う制作過程を中心に、堀込高樹(Vocal&Guitar)と千ヶ崎学(Bass&Vocal)に話を聞いた。



「自分の好みや癖をひとまず置いて、今の音楽シーンと親和性の高いものを作ろうと心がけた」


――今作の方向性はどのように決まったんでしょうか?

堀込:前作アルバム「ネオ」を作った頃から、リズムは生で録りつつもその他はシンセを多用するようになっていったんですよね。いろんな処理を施した打ち込みに近いようなサウンドへと変化していたので、今回も“この感じでやってみようかな”とアルバムの全体像を明確には決めずにぼんやり考えていたんです。そんな中で、今作の方向に定まる曲がいくつか出来上がってきて、その流れのまま自然とアルバムが完成しました。アルバムの方向性って、僕は曲が出来てから考えるんですよ。いい曲を作品にするという考え方が基本にある上で、自然に固まっていく。ただ以前よりも、目指す方向への振れ幅は狭く定まってきている感覚はありますね。

――ライブで演奏した際でのリアクションの影響はありましたか?

千ヶ崎:それによって決まっていった、という感じでもないですね。また、会議をして“今作はエレクトロにしよう”って話したわけでもないんです。でも作業するために高樹さんのプライベートスタジオへ行った時、“最近どういうのを聴いてる?”って音楽の話をすると、今回の流れで曲を作っていきたいとお互いに考えているなと思ったんです。そうやって、自然と今のKIRINJIの方向性を感じ取って作業に入っていきました。

――“最近聴いていた音楽”というのは?

堀込:カルヴィン・ハリスなど、ここ1・2年のうちにリリースされてヒットチャートに上がっているものですね。ラジオから流れていたり、息子が洋楽を聴き始めたことでサブスプリクションで常に音楽を流しっぱなしにしていたり、そういう中で“ああこれ面白いな”と思った音楽をチェックしています。

――今の音楽シーンも意識された制作だったんでしょうか?

堀込:そうですね。ちょっとマニアックな話になりますけど、今の音楽っていうのは低域に重心があり、その上にのる音もしっかりあって音圧が高い。聴く分には好きでよく聴いているんですけど、作っていく過程ではどうしても自分の好みが出てしまうので、中域に寄った音になりがちなんですよね。そういう風にKIRINJIの音楽を作るとなるとちょっと違う方向になってしまう傾向があるから、自分の好みや癖をひとまず置いて客観的になって、より今のポップスと親和性の高いものを作ろうと心がけて作業をしていました。

――そうなると、今までとは少し違った制作になったんですか?

千ヶ崎:これまではスタジオにみんなで集まって“せーの”で顔を突き合わせて、その時にしか演奏出来ないスタジオマジックを含めて録る部分もありました。でも今回はデータでのやり取りが格段に多くなったんですよね。例えばまずキックだけの音色を決めて、楠さん(楠均/Drum&Percussion&Vocal)がドラムで人間らしい音を加えて叩く。後日その音をもらって、僕がベースを一人で作業して録る……といったように、個々でサウンドを作り上げていきました。

掘込:他のバンドでも実はこういう作業って行われているから特別なものではないんだけど、自分たちとしては初めての試みだったんですよね。結果的に良い仕上がりで曲が出来上がったので、こういうやり方もありなんだなと勉強になりました。

千ヶ崎:プレイヤーがそれぞれ発信するアイディアのやり取りが増えましたね。これまでは高樹さんのスタジオでダビングしていたこともあって、使える楽器の数も限られてくるし、高樹さんにジャッジしてもらいながら弾いていたんですよ。グルーヴやリズムなど音色の選択に対して、高樹さんの判断に任せる分量が多かった。それが各々で録音することになり、自分のジャッジで音色を選ぶことになったので、個々のアイディアが集まったと感じています。僕らにとってはバンドっぽくない録音の仕方をしてるんですけど、むしろ逆によりバンドっぽくなったようにも思えて。完成したアルバムを聴いた時に、今のKIRINJIのバンド感を詰め込むことが出来たなと思いました。


「高樹さんの癖を知らないことが、最高に嬉しかった」


――4曲目「時間がない」は浦本雅史さんがミックスを担当しています。浦本さんはサカナクションやDAOKOなどを手がけており、今の音楽シーンでご活躍されている方ですよね。今回、浦本さんにお願いすることになった経緯を教えていただけますか?

堀込:初めての人と曲を作り上げたいと思ったんですよ。初めてで且つ新しい音楽に精通している人、そして今の音楽シーンにコミットしている人とやりたいなと考えていたら、浦本さんにたどり着いて。今作におけるKIRINJIのサウンドは、リズム隊の生のサウンドにプログラミングをしたサウンドを合わせている。浦本さんがサカナクションなどでよくされている仕事のスタイルとは違うけど、成り立ちは似ているんですよね。もしかすると浦本さんだったら、自分が持っているものを別のかたちにして良い落とし所を提示してくれるんじゃないかなと思ってお願いしました。

千ヶ崎:浦本さんとの制作は面白かったですね。僕たちのこれまでに対する先入観がないので、明らかに今までのエンジニアの方々とは違う処理をしてきてくれたんですよ。何と言っても、歌の聴こえ方が新鮮だったという印象が強くて。今までやってきた方々とは別の方向で、高樹さんの声の良さをちゃんとミックスで引き出してくれました。さらに高樹さんの癖を知らないことが、僕は最高に嬉しかったですね。長年一緒に作業しているエンジニアの方々は高樹さん好みのミックスをしてくれるので、今までのKIRINJIらしさとして良いものが出来上がる。とても素晴らしい方々です。でも今回はそれがない状態だったから、浦本さんが思う音のバランスは僕らにとって歪で、曲の解釈が変わりました。

――新たな視点が生まれたんですね。

堀込:浦本さんに限らず初めての人と仕事をすると、自分では思いつかなかったようなスタイルの音像が提示されますよね。それによってアルバムの全体像が開ける。固定観念に縛られずに、KIRINJIを捉えてくれる人と一緒にやることも重要なんだなと思いましたね。周りの人もスタッフもお客さんも自分たちも、長く続けて出来上がったイメージにどうしても縛られていく。縛られたままでみんなが安心できるものを提供していけば誰からも怒られはしないけど、それ以上の音楽的な展開はないし、むしろ同じことを続けているとクオリティが下がっているように映る傾向があると思うんです。例えば、昔から人気で味が変わらないと言われているラーメン屋さんって、実はその時代に合わせて少しずつ味を変えていたりするじゃないですか。だから音楽もそういうことをやっていかないと、ただ停滞してるだけになってしまう気がするんですよね。


「突飛な比喩や過激な言葉がなくても、全体を一本貫く言葉があることで印象に残る」


――今作も歌詞が印象的で、特に「非ゼロ和ゲーム」は“どこからこの言葉を引っ張ってきたんだろう?”と思いました。

堀込:メロディーとこの言葉の相性が良かったので使ってみたんですけど、『メッセージ』という映画の中で出てきた言葉なんですよ。気になって家に帰って調べたけど、win-winということ以上の意味があまり伝わってこなくて。だから、“非ゼロ和ゲームってなんだろう?”という気持ちを説明してるだけの歌詞になっているんですよね(笑)。

――この曲のように、普段の生活の中で触れて印象に残った言葉を用いて歌詞を書いていくんですか?

堀込:自分が経験したことばかりをモチーフに歌詞を書いてるわけではないですけど、まあまあ多いと思いますね。珍しい言葉を使うことで曲のイメージが飛躍すると考えていた中で、リズムを感じさせる言葉を上手い具合にのせようとしていたら、“非ゼロ和ゲーム”が浮かびました。この言葉自体、非・ゼロ・和・ゲームと単語をくっつけたような言葉で、すぐ4つに分解できるからリズムにノリやすかったんですよね。この曲は短いフレーズを繰り返してサビが成り立っているのもあって、単語や短いセンテンスで感情が伝わる言葉をのせていくようにしました。主語・述語・修飾語がある、いわゆる“てにをは”が入っている一つの文章ではなくて、単語を意識した短い言葉を中心に考えていきました。

――他の曲においても、同じように考えられたんですか?

堀込:割とそんな感じですね。言葉の強さを感じるような歌詞にはなっていると思いますけど、それを特別に意識して当てはめたわけではないんですよ。強い言葉をのせようと書いたのではなくて、結果的に強い言葉が配置された。言葉の印象が強いかどうかよりも、全体を繋ぎ合わせて筋を一本通すキーワードとして機能する言葉を見つけることが重要なんですよね。だから突飛な比喩や過激な言葉はないけど、全体を一本貫く言葉があることで聴く人の印象に残る歌詞が出来たと思っています。


「今あるのもでベストを尽くすというだけ」


――去年の12月にコトリンゴさんが脱退され、5人でのKIRINJIのスタートを切りました。

堀込:制作上の音楽的変化も大きかったので、5人体制になったことによる影響はあんまりなかったと思います。ただもし6人のままだったら、また違った内容のアルバムになったでしょうから、そういう意味では影響があったとも言えるんでしょうけど。

千ヶ崎:確かに苦労はないけど、コトリちゃんの声の存在って大きかったなと感じました。でも、今あるものでベストを尽くしてやるのみ、というだけですね。

――7月にはツアーが控えています。今作での変化を受けて、ライブの内容もだいぶ変わってきそうですね。

掘込:「愛をあるだけ、すべて」の内容と相性のいい曲を加えてのセットリストを考えているので、全体的にグルーヴで楽しませるようなライブにしたいですね。今のKIRINJIって演奏がどんどん良くなっている感触があるんですよ。だから今回のツアーもいいライブになると思います。


インタビュー・文/笠原幸乃

13th Album 「愛をあるだけ、すべて」 Now on sale


KIRINJI Official Site https://natural-llc.com/kirinji/

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KIRINJI
KIRINJI TOUR 2018

2018/07/20(金)
クラブクアトロ
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