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シンガーソングライター、ヒグチアイが『猛暑ですe.p』をリリース。9月のライブに向けエンジン全開の彼女にアプローチした。

2017/08/03 15:00

昨年11月にメジャーデビューしたシンガーソングライター、ヒグチアイが、ミニアルバムをリリース。タイトルはズバリ『猛暑ですe.p』。今年の夏を代弁するようなポップな曲からピアノのリフが格好いいタイアップ曲まで実にカラフル。9月のライブに向けエンジン全開の彼女にアプローチした。


――「猛暑ですe.p」の発売に合わせるかのように、まさに今年は猛暑ですね。

「そうなんですよね、こんなに暑くなるとは思わなかったので。いろんな所で猛暑ですねって耳にするとピクッと反応しちゃいます(笑)」

――アルバムの表題曲は前回のアルバム「百六十度」に収録されていましたが、また新たにフィーチャーしたのは?

昨年「『百六十度』を出した時は11月で、『猛暑です』という曲が冬にあんまり流せなかったんです。でも私はすごいお気に入りで、こういう曲はあんまり作ったことないし、たくさん聴いてほしいと思い、じゃあもう一度夏の曲を出す時に『猛暑です』を出そうってなったんです」

――ポップに進化させてるんですよね。e.p(エライポップ)バージョンに。

「はははっ、タイトルはちょっとふざけてるだけんなんですけど。ちょっとラジオで伝わるように、一番最初の所をオクターブ高いピアノの音にしたり、一番最後まで流してもらえるよう間奏を短くしました。今の音楽は音圧がすごいので、そこに打ち勝つには何かもうちょっと入れないといけないと思ったんです。流れた時にハッと気になるくらいに」

――ヒグチさんの曲はピアノのリフが印象的ですけどね。

「私もそう思ってるんですけど、街の中に埋もれちゃうじゃないけど、私の声が低いこともあり、アイドルの方達の後に私の曲が流れた時に、音小さいなって。そういったことで聴いてもらえないのはもったいないから、自分でできる範囲内で聴きやすいものにしようかっていうのはありました」

――歌詞は抜群に残りますけどね。サビが“扇風機返してよ”なんて。

「はははっ、すごい言われます。もうどうやってできたのかよく覚えてないんですけどね。“扇風機返してよ”と、冒頭のラインのやりとりのようなイメージが最初に浮かびました。“なにしてんの”から始まってる男女の感じは、ほんとに仲良かった時とだんだん離れていっちゃう時の、ちょうど境目みたいなのを書きたかったのかなって。結果的に“扇風機返してよ”がキャッチーになったからよかったですけど」

――サビの一行に主人公の気持ちが詰まってて、せつないです。

「そうなんですよね、彼女には幸せになって欲しい(笑)」

――歌詞には実体験を元にしているケースが多いとか。

「うんうんうん、書きがちですね。でも扇風機は貸したことはないです(笑)。ただ一緒に住んでた恋人と別れて引っ越しをするときがきて、その人も私も家にあった扇風機いらないなって思ったんですけど、扇風機は粗大ゴミで処分は大変で、じゃあこれを貸し借りする関係って、どっちかに比重があるというか、そういうことを思って書き始めたのはありました」

――PVではダンスも披露!

「もっと踊れるハズだったんですけど、友達には体幹がないのがわかるねって言われました(笑)。PVだけで楽しんでもらえるようなものにしたかったので、それはできたかなって思います」

――今回は新たな一面見せまくりですね。

「なんか人って見えてるモノだけじゃなくて、たとえばあんまり喋らなくて暗いって思われてても、友達といるとふざけたり、早口になって喋ったり、そういうのは誰にでもある気はして。一つの面だけ見ていろんな人のことを決めがちだなって。そういう人でしょ?って聞かれたら実際、そういう面の方が多いから自分もそう思って、それが自分の首を絞めてるように感じちゃったんですよ。そうじゃないのにっていう。だけどそれを続けなきゃいけないというか」

――決められた印象を崩しちゃいけないって。

「そうそう、そこからどんどん本当の自分が離れてっちゃって、無理矢理、作らなければならない状態になるのが悲しいなって思ったから、やっぱりふざけてる一面も自分の中にはあるし、遊びたいってこともあるし、何より、夏、好きなんだけどっていうこともあって。じゃあ、夏が好きって言ったら、ビーチに遊びに行かなきゃいけないの?って、別にそうじゃなくても好きでいいじゃん。そういうことは伝えたかったかな」

――だから「妄想悩殺お手ガール」みたいなナンバーがある。

「そうそう、そういう妄想ができるから夏は好きなんだよねっていう」

――主人公の女の子は座布団でサーフィンもしちゃう(笑)。夏らしいといえば、もう一つのウキウキナンバー「夏のまぼろし」は自身の落とし物体験から端を発しているとか。

「沖縄の離島に行った時に、携帯を海に流しちゃって。まあ、ただの不注意なんですけど、その携帯はたぶん海の底のどっかにあるのかなって思って。それで、そいつはもしかしたら私のことを探してるのかもしれないなっていうところから書いた曲です。その時、履いてたサンダルにむちゃくちゃ砂が詰まってて、これ持ってきちゃってよかったのかな、そこにいたかっただろうに東京の空気にさらされて、みたいな」

――それが“サンダルの裏にはさまった石の粒 あの砂浜の星の砂 小さな瓶に入れて いつか一緒に返そう”のフレーズに繋がるわけですね。頭の中を夏いっぱいにして書いてたわけですね。

「そうです、夏いっぱいにして冬に書きました(笑)。もう大変でした」

――「ラジオ体操」も、そうだ夏だって連想しました。“きただけでもらえるハンコ”ってフレーズで、まさに早起きした記憶が甦りました。

「そうだ夏だって思いますよね。私も人に言われてあとから気づきました。でもラジオ体操って実は1回も行ったことなくて。多方面から生徒が集まる学校に通ってたので友達が近くにいなくて、近所に友達がいっぱいいるような町に住んでたらラジオ体操にも行ってたかなって思ったり、ラジオ体操に行ってたら人生変わってたこともあるんじゃないかとか」

――“向かい風が支えてる”ってフレーズにぐっときました。

「私もそこは上手く書けたと思ったんですけど(笑)。普通に生きていても、なんにも知らない人からひどいこと言われたりもするんだって思った時があって、結局そういう言葉のお陰で、なにクソ!って自分ががんばれることもあるかなって。後ろからがんばれって押されてばっかだったら、どんどん行かなきゃいけなくて転んじゃいそうになるし」

――普段から思いついた言葉を書きとめていたりするんですか?

「しますします。結構、毎日いろんなことを思いついて。え〜、どんなことメモしてるかなぁ。(携帯電話を取り出し)今日の昼2時には、“もう病むのやめよう”って書いてあります(笑)。あと“チキンが今日、100グラム98円”。ここから曲が出来るのかなあ」

――のちにこのフレーズが入ってたら、ああ、あの時のって(笑)。

「あの時の! はははっ」

――サウンド的にも夏らしさあふれる一枚に仕上がってますね。ホイッスルなんかも取り入れたりして。

「基本的に全部自分がこうやりたいって言って、とにかく楽しい曲にしたかったんですよ。ドライブで聴けるような歌とか、いろんなモノが鳴ってても聴ける曲にしたくて、聴き込むとこの音、面白いなって気づけると思います」

――「猛暑ですe.p Ver」の最後には銅鑼の音とか。

「そこは自分でも気に入ってます。曲自体がその頃気に入ってた中国っぽいアレンジってのがあって、それを入れたりしながらやってたので」

――だからこそ「やわらかい仮面」が突出してますね。“うらめばうらむほど わたしはきれいになる” “死んでも許さない”。とても過激ですが、都市伝説をテーマにしたホラーショートアニメ『闇芝居』との初タイアップ。

「こういう曲を書いて下さいと、5つくらい言葉をもらったんですけど、それを一つに繋げて線にするんじゃなくて、違う場所にもう1個置いて、それぞれを繋げて6本にしたものの真ん中を取るみたいな。その一点を探すのが楽しかったです」

――その一点は具体的には何でしたか?

「たくさん女の人がいる中に男の人が一人いるって話だったんですけど、結局、許さないんじゃなくて、最終的にはすべてを忘れてしまうことが最終的な復讐だという、その一点に行き着いたんです。ただそこまで書いてしまうとわからなくなっちゃうと言われて、そこに行くまでの経過だけ書いて、許さないという感情で止めるっていう。だから許さないの先は書けてないんですけど」

――許さないという負の感情を持ち続けるのもエネルギーがいるので、忘れてシャットアウトする、その人の存在をなくすというのが最大の復讐になると。

「人に忘れられるっていうことが一番悲しいことじゃないですか。ひどいことをその人がしたのに、すべてを忘れられてるっていう、その状態になるまでの過程。だから許してもらえるんですよ、この人は。可哀想に(笑)」

――恐くてオンエアはチェックできませんでした。

「そうなりますよねえ。私も恐いの苦手で、お昼に録画したものを見たのですが今でも思い浮かぶくらい恐い絵が残ってますよ。後味の悪さとか似合ってると思います、この曲が」

――今回の制作を通して新たな発見は?

「全然、弾き語りでできなくてもいいじゃんって。ピアノの弾き語りでライブでできないと作っちゃいけないと思ってて、でもそうじゃなくても自分らしい音楽は作れるし、ポップでもヒグチアイは作れるから、もっと音楽でやりたいことやってもそんなに外れることはないと。だから全然、裏切っていっていいんだと思いました」

――作っていく中で、最後は「残暑です」にしようと。

「これは3曲目にできた曲なんですけど、『猛暑です』のその先の話だから、一番最後のボーナストラックみたいな感じで入れられたらいいなと思ってたら、すごい素敵なアレンジにしてもらって、ボーナストラックじゃもったいないと。また「猛暑です」に戻って聴いてもらえるように作りました」

――ジャケットもインパクトありますね。防寒着を着てソフトクリームを食べてるから、一瞬「?」となる。

「これが店頭で並んでいるのを写真で見た時に、不安な気持ちにさせる人いないかなって思っちゃいました。どういうこと?ってなる人いっぱいいる気がして。今まで自分の写真をジャケットにしたことなかったので、恥ずかしいです。自分がこんなに前に出てて」

――9/2のヤマハ名古屋ホールでのライブも今までにないアプローチになりそうですね。

「その日は弾き語りでやります。グランドピアノを前に置いて、後ろにエレピ(エレクトリックピアノ)を置いて、両方でいろんな音を使って、弾き語りにある厳かな感じだけじゃなく、ノリノリになれる感じにもしたいなと思っています」

――エレピもあるならできそうですね。

「お客さんと近い感じになれるっていうのも弾き語りにはあるので、いろいろ喋ったりもしたいなと」

――名古屋は1月にell.SIZEでライブがありましたね。

「あの時は初めての5人編成で、音源を再現するライブっていうのを今までほとんどやったことがなくて、CDの音が生で聴ける感じだったんですよ。家で聴いてるノリノリの感じをそのまま持ってこれる曲もあったし、あんまり違いがなく楽しめたライブになったんじゃないかと思います」

――ファンの反応はいかがでしたか?

「どうなんだろうなぁ。言ったら、私のライブって一生懸命、真剣に聴いてくれる人が多くて、ほんとに泣き崩れちゃう女の子もいるし、一人だけすごい盛り上がってる方もいるし(笑)、ほんとにいろんな人がいて、それでいいなっと思ってるんです。好きに楽しんでもらえるように、あんまり押しつけないようにしたいなって」

――今年はフジロック初参戦も待っています。猛暑の中で猛暑の歌を唄う。

「いやあ、どうなんでしょうかね。暑いんでしょうけど、雨降りそうな気もするし…。その日はパーカッションとギターと三人で。レコーディングも一緒にやってくれたメンバーなんですけど。リハはこれからで、妄想膨らませております」

――今までハプニングなどは?

「野外でやった時に一度、最初の歌を唄おうとして息した瞬間に虫が入ってきて、喉に詰まって歌えないってことがありました。2曲目でもまだ詰まってて、自分の中ではパニックになってました。だからフジロックもちょっと心配なんですけど」

――感極まって自分が泣いてしまうことは?

「ないですね。もしかしたらこの先あるのかもしれないですけど、どちらかと言うと歌ってる時は技術的なことを考えてることの方が多いので、一歩引いてる感じがあるかな。感情的になるとよくないって言われるんで」

――いつもどんなステージにしたいと思って臨むんでしょう。

「なんでもそうですけど、嘘つかないようにしようってのがあって、あ、でも、今日落ち込んでるから落ち込んでるライブしようってのはないですけどね。自分の感情を押しつけずに、相手が自分の感情を感じられるくらいの空気感、そういう隙間みたいなものをあげられたらいいなってすごい思ってるんですけど」

――相手に余白を作ってあげるんですね。

「だから、がんばって行こうゼー、イケルかーっ、とは違う」

――夏だからってビーチに行かなくちゃいけないことはない、っていうアレですね。花火も花火大会ではなく…

「そう、ベランダで。だけどそういうことやりたいならやってもいい」

――キャリア的にはもう10年。どんなシンガーソングライターを目指しているんでしょう。

「歌を唄うことを長く続けたいなとは思ってるんですよ。ちゃんと続けていけたらいいなとは思っていて、自分の気持ちや精神的な面やお金とか生活だったりとか、何かが辛くなったら長く続けようって気持ちが続かなくなる気がしてて、だから生きることを満喫したくて、その中でこれは曲にしたいなっていうことができたらいいなと思ってます。その循環が早ければいっぱい曲が書けるだろうし、生きることをちゃんと充実させて続けていけたらいいですね」

――そしたら「ラジオ体操」のように、“生きてるだけでもらえるハンコ よくがんばりましたって押して”もらいたいですね。

「あげたいですし私も欲しい。あげ合いたいですね」

――最後に言い足りないことをどうぞ。

「ジャケットよりもちょっと可愛いんだよってことを。はははっ。ライブで確かめに来て下さい」


インタビュー・文:深見恵美子

Mini Album 「猛暑ですe.p」 Now on sale


ヒグチアイ Official Site http://higuchiai.com/
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ヒグチアイ
ヒグチアイ(夏)ソロコンサート 〜まだまた猛暑ですツアー〜

2017/09/02(土)
ヤマハ名古屋ホール
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