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出産後初となるアルバム《Babe.》がいかにして生まれたのか。彼女の赤裸々な思いがたくさん詰まった、すべての女性に読んでもらいたいインタビュー

2017/04/03 15:00

阿部真央が約2年ぶりとなるニューアルバム《Babe.》をリリースした。これまでも自身の赤裸々な感情や経験を歌にしてきた彼女だが、今作ではこの2年の間に起きた様々なことが歌になっている。それはインタビューで彼女自身が語っているように出産や離婚といった出来事が、阿部真央というアーティストを一回りも二回りも大きくさせたからだろう。一人の女性として、そして母親として生きる彼女の今が詰まった渾身のアルバム《Babe.》がいかにして生まれたのか。彼女の赤裸々な思いがたくさん詰まった、すべての女性に読んでもらいたいインタビューをどうぞ。

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――出産されてから初となるアルバム《Babe.》をリリースしました。出産の前後はアーティスト活動を休止せざるを得なかったと思うのですが、出産の決意からこれまでを振り返ってみていかがですか?

「一昨年に子供を産んだんですけど、出産直後は仕事モード皆無でしたね。その後も曲はまったく書いていなかったんですけど、自分の中では母親としてもアーティストとしてもすごく中途半端な感じがしてモヤモヤしていたんです。だからもっと焦らないといけないと思ったし、すごくもがいてました。今思うと子どもを産んでから2つのバランスが崩れてしまって、その整理がついていなかったんでしょうね。前は書きたいことが常に自分の中にある状態だったんですけど、自分に問いかけても歌いたい事がでてこない状態でした」

――そうした葛藤する時期を抜け出すきっかけは何かあったんですか?

「これという出来事はないんですが、ようやく母親とアーティストのバランスがとれてきました。それまでは子育てに比重をおいていたんですが、去年の秋に息子が1歳になったんです。離乳食を良く食べる様になったり授乳の回数が減ったりしたことで周りの協力があれば、なんとか私がアーティストとして活動する時間を確保できるようになったんです。それと出産後初のツアーがはじまるという事もあって、その2つが重なったことでお尻を叩かれるようにスイッチを入れました。まあ、時期も良かったのかな? そこからは自然にまた曲がいくつも浮かんできたんですよね」

――今回のアルバムは出産によって生まれた曲がいくつも収録されていますが、それ以外のテーマの曲もすんなりでてきたんですか?

「そうですね。これまでは“実体験を全部歌います”というスタイルだったんですけど、キャリア的にさすがに自分の体験だけを歌にするのは限界があると感じていたんです。それで今回からフィクションの要素から作詞を膨らませた曲が増えています。核となる自分の気持ちはリアルなんですけど、歌詞の内容は想像で書いている曲もあります」

――そうやって出来た曲はどれですか?

「その最たるものが1曲目の〈愛みたいなもの〉ですね。私を知っている人が聴けば『この2年間で起きた色んなことを歌にしたんだ』と思うはずで。実はそう思ってもらって全然良くて、その為に1曲目にもってきたというのもあるんです。ただこの歌詞の中で今の自分が心から思ってることや、自分の実体験から生まれた言葉は数行しかなくて。あとはそれを軸にして曲のイメージを含ませて歌詞を書いていきました」

――この曲を聴いた時にお子さんの事を歌っていると思ったんですけど、聴き進めていくとどうやら違うと気づくんですよね。タイトルにあるようにこの曲は愛について歌っていて、それは夫婦や恋人でもいいですし、もしかしたら友人との愛なのかもしれない。色んな角度から愛について歌ったのかなと。

「正直意味深な曲ではあるので、そうした色んな捉え方ができるのは狙っていました。この2年間で結婚、出産、離婚をした阿部真央が産後復帰したアルバムの冒頭がこの曲なのは“あ、なるほど”って感じじゃないですか。良い意味でリスナーを裏切りたかったというか、普通だったら息子のことを歌った曲がくると思うんですけど、この曲が1曲目だから阿部真央らしいなと」

――新しい歌詞の書き方にもチャレンジしていることからも、出産の時間があったことで阿部真央というアーティストとじっくり向き合えたんじゃないですか?

「自分の歌や歌詞についてはすごく向き合える時間になりましたね。そうした時間があったから新しいことにもチャレンジできましたし、実は歌詞の面ではもう1つ新しい書き方をしたんです。それはメロディーの響きを優先して歌詞を書いたんですけど、それが『逝きそうなヒーローと糠に釘男』です。言葉の響きを重視して歌詞を書くのも楽しかったので、色んな発見があったアルバムになりました。今までの作り方の“こうあるべき”みたいなルーティーンを一度なくせたかな」

――音楽から一度離れたことで、自分がアーティストとしてどうあるべきかを見つめることができたんですね。

「自分のこれまでの活動を振り返る時間にもなりましたし、大袈裟に言うと私の人生を振り返る時間にもなりました。出産って本当に大きなことなので、シンガーソングライターとしても、親としても、どういう人間になっていきたいかと向き合いましたね。やっぱり私が望む人生って仕事の充実なしにはないんです。私の曲の書き方は私生活と密接なので、その分、人としても大きくなっていく必要があるなと。覚悟とも違うけど、より強い意思をもって歌を歌おうと思いました。それは私自身のためにも息子のためにも、何より聴いてくれる人たちのためにも」

――阿部さんにとって目指したい女性像はあるんですか?

「こういう女性になりたいとかはないんですけど、ありのままでいることが一番幸せだと思っています。だからインタビューでも自分が思っていることを全部言いたいし、原稿チェックもスタッフではなく自分でしたいんです(笑)。ライブやラジオは自分の生の言葉で発信できるからとても好きです。ただ自分が今思っていることを発信していく事が好きというより、正しく自分の気持ちが受け入れられるような人でありたいんです。そうやって自分をさらけ出して作った音楽が誰かを励ましたり元気づけたりしていたら最高ですよね。こんな天職はないなと思っています」

――では女性としてもアーティストとしても出産という出来事を体験したことはこれからの財産ですね。

「経験できて良かったなと心から思います。出産ってすごく動物的な行為だと思うんですけど、この経験なしには書けない歌がたくさんあったはずです。私はファンタジーの世界に生きている人間ではないし、歌にする内容も生々しい。だから歩んでいない人生のことを歌にはできないので、こういう言い方をするとあれですけど経験できることはしたいんですよね。体験しないと分からないことだらけなので」

――渾身の楽曲である〈母である為に〉は、間違いなく出産を経たからこそ書けた曲ですよね。

「確かにそうですね。出産を体験しなかったら絶対にかけなかった曲ですし、子どもを産んだ素直な気持ちがすべて詰まっています。母親になって感じたことをぽろぽろ書いたので、アルバムの中で一番素直な曲です」

――母親としての自分の日記をつけるように書いた曲ですよね。

「ホントにそうです。この曲を書こうと思った時のことは明確に覚えていて。息子が4、5ヶ月の頃で、ちょうど離婚の発表などがあった時期だったんです。寝かしつけて寝顔を見ている時に、私がどうやって生きていくかによって息子を見る周りの目が変わると気づいたんです。この子には何の問題も責任もないのに周りから良くないことを思われてしまったら、『本当にごめんね』って思ったんです。私の仕事が原因で嫌われてしまう事もあるだろうし、まずは『ごめんね』という気持ちを携帯のメモに書いていて。でも、“私は幸せだな”という気持ちを残しておきたいという思いの方が強かった。母親になってからの色んな思いが溢れて、ありのまま曲にしたら〈母である為に〉ができました」

――「私があなたの母である為に あなたの母はいつでも悪口言われてばかり」、「母があなたの母であること あなたはいつの日か少し嫌になるかもしれない」という歌詞がありますが、それは阿部さんだからこそ書けた一節だったんですね。

「確かにね、子どもが生まれた喜びを曲にしたらこんな歌詞にはならないもんね。『あなたが傷つくかもしれない』と歌っているのは、私が自分の体験をもとに歌をうたっているシンガーソングライターだからで。いつか息子がこの曲を聴いた時に良い風に思ってもらえたら万々歳だけど……それは実はどっちでもいいんです。私の記録として残せたらという気持ちで作ったので、全力で息子のことを愛しつつ彼らしく生きていってほしいです」

――シングルマザーの女性もいるでしょうし、子供を産んだ方もいれば子供を欲しくないなと思っている女性も世の中にはいると思います。ただ、こうして阿部さんが自分の女性としての思いを音楽やライブで発信していくことで勇気づけられる女性が必ずいると思います。それは阿部さんの歌が赤裸々だからこそ響くというか。

「そうやって女性の背中を押すことができていたら本望ですね。出産とか子供を持つとか持たないとかって、すごいデリケートな問題じゃないですか。だから何を書いても何を言っても、何か言われると思っていて。それだったら素直に表現することが一番良いなと。この曲は私の母親としての記録を世の中に発表するというすごくエゴな曲なので、それが誰かにとって大切な歌になったら嬉しい。私たちは大人になりましたけど、誰もが誰かの子どもという視点で聴いても新鮮な発見のある曲のような気がしています。そうした当たり前のことを振り返る良い機会にもなるのかなって」

――ああ、なるほど。それはすごく分かります。人が人を産んでいくことを歌った曲でもあると思います。

「今から話すことは実は初めて言うんですけど、少しだけ話がそれるかもしれなんですけど良いですか?」

――もちろん大丈夫です。

「妊娠中に出産のドキュメンタリーをよく観ていたんですけど、最初から産んだ子どもを養子縁組にすることを決めている女性のドキュメンタリーがあったんです。とある理由で、産んだらすぐに養子縁組にだしますという彼女は、お腹の中にいる赤ちゃんをみても“全然可愛くない”と言うんです。だけど養子縁組の親子って一回しか抱っこできないルールがあって、産んだあとも母親に情が湧くから会っちゃいけないんですね。普通は母子同室なんだけど、養子縁組の母子は当然別室で。あれだけ可愛くないと言っていた彼女も産んだ後はどうしても気になるみたいで、何度も子どもの顔を見ようとするんです。それで最後に養子縁組にだすサインをして“最後に抱っこしますか?”と聞かれて抱っこをするんですけど、彼女は号泣するんですよね。それを観た時になんとも言葉にし難い感情になって……」

――その女性の気持ちを思うと胸が苦しくなります。

「色んな家庭環境の子どももいれば、残念ですけど病気で亡くなってしまう子もいる。中には事件に巻き込まれてしまう子や虐待されてしまう子もいると思います。でも、そこにあるのは本当に全部が憎しみなのかなって私は疑問なんですよ。母親としてあんなに痛い思いをして産んで、苦しい思いをしながら育てていて。少なからず誰しもがお腹の中にいる時にお母さんの愛みたいなものを受けていると思うんです。だってお母さんから生まれた体なんだから、それ自体が愛だなと。誰もが誰かの子どもで何かしらの愛情をうけとって、この世に生を受けているという感覚を感じながら書いた曲でもあるんです」

――これから子育てをしていく上ではスタッフや周りのサポートなしにはアーティスト活動が成立しませんよね。そこは阿部さんの中でも割り切ることができているんですか?

「今年に入ってから完全にふっきることができました。毎日四六時中そばにいてあげたいですけど、この仕事をしている限りそんな訳にもいきません。なので私の母親やスタッフには本当に感謝しています。先日大阪キャンペーンをした時は息子にも来てもらって、そうやってなるべく同じ時間を過ごせるようにしています。家にいる時はできるだけ仕事をしないとか、携帯を触らないとか、そうした小さいことも大事だなって。これから成長していくにつれて寂しい思いをもっとさせると思うんですけど、仕事と母親のメリハリをしっかりつけて両立していきます。私が私の仕事に誇りをもって全うしないと、迷惑をかけている息子にも悪いですからね」

――4月2日(日)には日本特殊陶業市民会館フォレストホールでライブもあります。《Babe.》の曲たちがライブでどんな風に届くのか、とても楽しみです。

「何より2年ぶりのツアーでお客さんを待たせてしまったので、これまであったことがすべて阿部真央の成長に繋がっていることをお見せできたらなと思っています。不安や緊張もあるんですけど、私自身がお客さんと会えることをめちゃくちゃ楽しみにしているのでツアーがはじまることが待ち遠しいです」

インタビュー・文:菊池嘉人

阿部真央 Officiel Site http://abemao.com/

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ライブ情報

阿部真央
阿部真央ライブハウスツアー"Closer"

2018/04/27(金)
ダイアモンドホール
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